連載コラム

森永伊紀 氏

~ ヘルパーは「家族と同じ」 ~ に込められた利用者からのメッセージ

間口は狭いが奥行きのある一軒家に、和嶋(仮名)さん夫妻が住んでいます。
他県に住む長女が、母の認知症に気づき、ヘルパーの利用が始まりました。
しかし、訪問すると夫は、「妻の面倒は自分が見る」と言って、買い物だけを頼むのでした。
トイレが汚れていても「せんでええ」と掃除をさせません。
1ヶ月が過ぎたある日、ヘルパーは妻の尿失禁に気づき、タオルを探しに家の奥の風呂場に入ると、妻の失禁で汚れた衣類が山に積まれていました。
夫は「臭いのは自分が我慢すればええ」と洗濯させません。
夫は、物忘れのある妻に覚えさせようとし、イライラして怒鳴り、時に叩く様子も見られました。

しばらくすると夫は、ヘルパーに「妻が言うことを聞いてくれない」と愚痴をこぼすようになりました。
ヘルパーが、夫を誉めたり、妻をかばったりしながら、場が和み始めた時に「お茶碗拭きましょうか」と申し出るようにすると、夫婦は「あんた悪いねぇ」と仕事を頼むようになりました。
ちょうどその頃から、夫婦はヘルパーに対し、「あんたは家族と同じやね」と言うようになりました。

和嶋夫妻の「家族と同じ」という言葉には、二つの意味があります。
ホームヘルパーの援助は、利用者・家族からみれば「プライバシーの明け渡し」を伴うものであり、契約を締結したとしても、汚れた下着や自分の体を見せることには強い心理的抵抗感が残ります。
「家族と同じ」は、「家族でなければ踏み入れないようなプライバシーに関わることを許された人」と言う意味があります。
もう一つは、ヘルパーに対し「このままずっと来て、助けて欲しい」というメッセージです。
利用者・家族は、老いや障害によって生じた生活の困難や危機にあって、信頼で来る援助者を生活に取り組み乗り越えようとします。
ヘルパーは、利用者・家族のプライバシーに関わる者として信頼を築き、そして、利用者・家族からのメッセージを敏感に受け止め、援助を展開していく力量が求められます。

(ホームヘルパーの手による1000の事例研究会から)