連載コラム

大橋奈美 氏

80歳胃がんの末期で

80歳の次郎さんの長男夫婦から「父が胃がんの末期で、退院したい。最期は、自分が建てた家で死にたい」という希望があり、在宅ホスピスをお願いしたいという依頼があった。病院の医師によると、余命は1週間であった。退院してきた次郎さんの初回訪問の言葉は「あー家に帰って良かった。これで、安心してあの世に逝ける」という言葉に、家族とともに涙した。

余命1週間という次郎さんは、妻、長男夫婦、孫2人の6人暮らしだった。
2週間ほど経ったころ、私が麻薬の内服確認をしていたときに、「貴女は、元気そうで羨ましいねー」と次郎さんはベッドで寝ている体を少し横に向けて言った。私は「元気に見えるとよく言われます。これでもあーすれば良かったなとか反省ばかりです」と言った。
その頃はスタッフ教育について悩んでいた私だった。次郎さんは「反省をする人は、本当に人の上に立つ人だとわしは思う。反省できない人には、上に立つ資格などない。それでいいんだ。『頭まわらな尾はまわらん』という言葉がある。貴女達の仕事は、本当にわしや家族を不安から安心に変えてくれる仕事だと思う。頑張って、それで良いんだよ」と・・・「見透かされたー!」と思った。この会話の3日後に、次郎さんは家族の見守られる中大好きなウイスキーを毎日飲んで、やすらかに息を引きとられた。

私たちエンゼルケアは、2人の訪問看護師で実施する。1人の看護師が次郎さんの体の後ろにまわって抱え、もう一人の看護師が家族とハグハグできるように、トントンと背中をさすりながら家族全員にお別れをしてもらう。妻は「お父さん今まで有難う。向こうに私が逝ったときは会おうね」といつも大人しかった長男は「親父、親孝行できなくてすまなかった」と泣いていた。私は「家に連れて帰ってくれたこと、本当に親孝行できたよ。お父さんいつも、感謝してるって看護師に話してたよ」と話す。家族は、涙を流されながらも清々しい表情であった。これが、訪問看護の遣り甲斐につながる。

私は、今でも反省するたび「反省する人は、人の上に立つ人だ」と語って下さった次郎さんの言葉を思い出し、訪問看護している。