連載コラム

本松洋一 氏

本当のQOLとは

いつのまにか私たちは良くも悪くもとてもお堅い役所的な事業所になっていました。
「ヘルパーは予め決められた必要最低限のサービスを最短時間で行なって退出する。足すも引くもない」
介護保険では行なえないサービスはしっかり区別されています。必要最低限とは、自分で出来ることは極力自分で行なってもらうと言う事です。

支給額の9割が公費で賄われている事、自立支援が目的である事を考えれば当然かもしれません。

料理自慢のヘルパーが手際よく美味しそうな料理を作っても、そこに現れた保険者から、「そんな物作らなくていいの。おにぎりでいいのよ。時間を無駄にしないで。」と言われる現実。
疑問に思いながらも、保険とはそういうものだと納得するしかありませんでした。
私達も顧客の依頼に対して「それは保険外なのでうちでは出来ません」と言う対応がいつの間にか当たり前になっていたのです

そんな折、〇〇大学から教職員の方の介助を頼まれました。その方のご病気はALS(筋萎縮性側索硬化症)。
仕事内容は往復の通勤介助と、あとは傍にいて、必要に応じてパソコンなどの操作を頼まれたら手伝うという漠然としたものでした。
当然のように介護保険ではできませんと答えると、費用は大学で持つからぜひとのことでした。
最初はお断りしようと思いました。そういった型に、はまらないサービスにとまどったからです。

私はいつもの型にはめようと、希望される内容、ADL等を確認し、時間配分や援助の範囲等を決めました。そして自立支援の観点から出来ることは全てご自分でして頂きました。しばらくのち、これは間違いだと気づきました。この方の何よりの望みは研究に没頭することで、その為であれば寝る時間や食事の時間すら惜しく、研究以外で疲れている暇はなかったのです。

私はその方のお話が忘れられません。「この病気は昨日よりも今日、今日よりも明日、確実に機能が落ちていきます。だから今のこの時が一番良い状態なのです。明日にはまた落ちる。だから今やれることは今やりたいのです。」

私はそれまでの考えを一旦横に置き、時には夜中まで付き添って援助しました。
その方の日常生活上のストレスや労力を少しでも減らし、体力温存を最優先したのです。
そして、今一番必要な援助は何か。より身体の負担が少ない介助は何かを日々考え、足を置く位置、指先一本の向きに至るまで探りました。
ケアマネも私が引き受け、介護保険や障害者自立支援制度を最大限利用する事で在宅での生活でもストレスの軽減を行うことが出来ました。

その甲斐あって、その後人工呼吸器をつけてもなお精力的に研究を重ねられ、数々の学会で発表されるその生き生きとした姿は、まさにその方のQOLの達成の表れでした。

介護保険など、行政の制度には当然限界があります。私はその限界の中でしか仕事ができませんでした。
しかしこの援助を通し、視野が広がった様に感じています。
確かに費用の問題などはありますが、そんな事より大切な事は、まずは利用者の方との信頼関係を築き、傾聴し、そしてその方の望むことを探り理解する事。 制度の長所短所を理解し上手に使うこと。事業所の垣根を越えてチームで連携を取り、知恵を出し合う事ができて、幅のある生活支援ができるのではないでしょうか。

「私たちが草取りするからまた花壇の花を育ててみない?」

「一緒にお散歩に付き合うから以前のようにまた絵を描いてみない?」

「得意だった肉じゃがを一緒に作らない?私に教えて?」

「生活の質」とはそういったところに散らばっていて、少し目を凝らせば見えてきます。
それを拾い上げて、できるところから始めてみる。

我々介護者は介護保険の使用人ではなく介護のプロであり、視野を広く持つ事が「仕事の質」にもつながると思います。