連載コラム

石原綾子 氏

地域と介護現場が創出する食の在り方

食は、一生を通じ、栄養学的な側面と、愉しむ側面、記憶的な側面に分けられると考えられる。
生きるために必要な栄養素を摂取することはもちろんのこと、精神的にリラックスし、誰かと一緒に食事をすることで心の栄養摂取ができる。
また、記憶をよみがえらせる味、香り、食感、空間などで懐かしさやその時の感情を思い出し、脳への栄養(刺激)を与えることができると考える。
食べる行動は、五感を使う。
料理の盛り付けや彩りである視覚、野菜を切る音、食べる音などの聴覚、おにぎりや手巻き寿司など料理を直接手で触る、食材を直接触る触覚、味や風味を感じる味覚、食材の香り、料理の香りなどの臭覚である。

前回、介護現場での食について着目したが、噛む力(咀嚼機能)、飲み込む力(嚥下機能)を助け、健康状態なども含めたひとりにひとりに併せた食を用意している。
美味しく楽しく食べたいというのは、一生を通じて全ての方が思うことである。
食の楽しさや感動を与えることが非常に重要であり、感動・楽しさを併せ持つ過去の記憶に残る「思い出飯」として提供する食は、介護の現場においても非常に貴重なものである。
食べ慣れた地域食材や郷土料理、行事食などを利用した介護食を提供することで、記憶を呼び起こす思い出飯が実現できる。
愛する人に作ってもらった料理、作ってあげた料理、愛する人と食べた食事など、「思い出飯」はそれぞれのストーリーがある。
その食のストーリーの中には、家族、地域が存在する。
「思い出飯」を通したコミュニティ、繋がりを作ることも非常に大切なことだと考える。

最近は、地域の食材を利用した介護食品が開発されている。
平成25年2月から農林水産省が中心となり、厚生労働省、消費者庁等とも連携し、介護食品の市場拡大を通じて、食品産業、ひいては農林水産業の活性化を図るとともに、国民の健康寿命の延伸に資するべく、これまで介護食品と呼ばれてきた食品の範囲を整理し、「スマイルケア食」として新しい枠組みを整備している。
様々な機関では、特に栄養学的な側面でスマイルケア食の開発が進んでいるが、地域の食材を利用したものも開発されてきており、多様な食の展開がなされている。
私は、仕事で地域の食の現場にいくことが多々ある。
社会で懸念されているように、地域食材を作っている方は、ほとんど65歳以上の方である。
地域に行くと、生産者の方から、その地域の食材や伝統的な料理を振る舞って頂き、さらには食文化の話を聞くことができる。
インターネットが普及し、情報化社会という時代でも、初めて知る食がたくさんある。
知られざる食には驚きと感動をいつも頂いている。生産者に他の地域の話をすると、驚きや興味を示され、必然的に会話が生まれる。
このようなシーンを介護現場の食に置きかえて考えてみると、一人ひとりの「思い出飯」をみんなで共有することで、
私の食ストーリーは・・
といったように思い出が必然的に会話に繋がり、さらにはその「思い出飯」を食べることで味の共有もできてしまう。
「この味は美味しいね。」
「この料理は私の地域の食と似ている」
「私は小さいころに良く食べていたな」
等、食の思い出を通したその方のライフスタイルや価値をシェアできるのだ。

食を通したコミュニケーションは、介護現場のみならず、家族で食べる食、会社で行う会食など生活する中で実際に生まれているものである。
しかし、多様な食が日本にはありふれてきている。
生活習慣病等の栄養学的な課題や、核家族化し食文化を受け継いでいくこと等が難しくなっている。
介護現場の食を通し、食文化を一番良く知る高齢者の方の「思い出飯」が、次世代に繋がる食として地域の食、家族の食を伝え、ライフスタイルの食の思い出を共有する価値共有の場になると考える。

食のストーリーを食材・調理・食べる人にフォーカスすることで、介護現場により多くの笑顔があふれ、結果的に地域への繋がりを強くすると強く思っている。