連載コラム

柴田範子 氏

柴田範子氏

Profile

東洋大学ライフデザイン学科准教授。NPO法人「楽」理事長。
神奈川県社会福祉審議会委員や介護福祉士国家試験委員。
1987年川崎市においてホームヘルパーさんとして勤務。1999年4月上智社会福祉専門学校の講師として教壇に立つ。
その傍ら、NPO法人「楽」を設立し、2005年4月より現職。
2004年NPO法人「楽」は川崎市内を中心に福祉・介護にかかわる事業、研修、研究、相談事業等を行っており、認知症デイサービスセンター「ひつじ雲」を川崎市幸区に開設。2006年5月には新制度の「小規模多機能型居宅介護」へ形を変え、それと同時に新たに「認知症対応型通所介護」(デイサービスセンターくじら雲)を同じ幸区内に開所。
現在は、介護の質を高めたいと言う願いを持ってサービス提供責任者の実務研修に力を入れている。

メッセージ

介護は目の前にいるその人を知ろうとする事から始まります。

その人とコミュニケーションを図るところから始まります。

初めて出会う目の前にいるその人の情報は限られた狭い内容。
決して、まじまじと観るわけではありませんが、
体は大きいのに顔が白いなー、若いころスポーツでもしていたような体型なのにどうしてだろう。
表情が乏しいなー、脳梗塞からのその状態にある事を受け入れる事ができないのかなー
等と想像するのではないでしょうか。

どんな人だったのだろう。
そして、その人の今の気持ちは?
これからをどの様に過ごしたいのだろうと知りたい事は広がります。

A氏との出会いは2年半前でした。
仕事を辞し、今度は都会で頑張っている娘の役に立ちたいと、ご夫婦で関西の自宅を引き払って娘さんが住んでいる川崎のマンションに移り住みました。
数年後、高血圧だった事が要因したのか、体調を崩し入院。
入院先で2度脳梗塞を起こしてしまったのです。

適切なリハビリがされずに自宅に戻りました。
在宅での介護で奥様の疲労が高くなり、めまい等様々な徴候が出てきました。
かかりつけ医から、奥さんの時間を持つ事を勧められ、私どもと縁ができた経緯があります。
縁を持たせてもらった当初は、声も出ず、表情が硬く、身体全体が固まった状態でした。

職員の語りかけから始まりました。
できる限り語りかける。
1人だけではなく複数の職員が場面場面で語りかけます。
トイレに行く時も、硬い体に負担がかからないように、2人の職員で言葉を掛けながら前と後ろで協力してA氏に立ちあがってもらいます。

最近では女性が訪ねて来て言葉をかけられますとにっこり。
握手を求められると動きづらい右手を動かし手を握ろうとします。
職員に「きれいな方には握手も応じるのね」と言われ、にっこりして笑いの涙が。

大好きな娘さんが嫁ぎました。
職員が「瀬戸の花嫁」を口づさむと笑顔と涙があふれます。
出づらかった声も出るようになりました。
体の動きも随分良くなりました。
確実に奥様の負担も軽減されるようになりました。

生活の背景を知る事はコミュニケーションの幅を広げます。

自宅への訪問も多い事から、A氏やそのご家族の思い、価値観、
希望が見えてくる機会が多いのですが、
それをいかに有効にケアに活かすかが問われる事になります。

ケアの質は、その瞬間だけで終わるものではなく、かかわり続けている間中問われるものです。
ケアは社会一般の方々に見えるものではなく、所によっては密室の中で行われます。かかわり続けている事をきちんと記録に残す事が必要なのです。

「変わりありません」ではなく、その人の目標に沿って行われてきた支援を具体的に残しましょう。
ケアは1人で行うものではなく、複数の介護職員で、時には、他の職種の方々と進めるものです。
記録を具体的に残す事で、一か月前と今、一週間前と今の違いが見えてくる事になります。

その人を知ろうとする日々のかかわりと、実践をキチンと記録に残す、双方が絡まってケアの質を高める事に繋がるのです。
実践。記録を基に支援のあり方を見直していく事で、求められるケアの質に近づくのだと言えると思います。

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