連載コラム

篠崎良勝 氏

篠崎良勝氏

1969年生まれ 茨城県出身。
筑波大学大学院(教育研究科・障害児教育専攻)修了。
1996年4月民間シンクタンクにて自治体の介護保険計画など計画策定業務担当。
1999年4月から民間病院問題研究所(現・ヘルスケア総合政策研究所)主席研究員として介護労働に関する調査研究を担当。
2002年4月から介護情報誌「かいごの学校」(日本医療企画)初代編集長。
2005年4月から八戸大学人間健康学部専任講師。現在は准教授。
平成20年から毎年6月に八戸大学にて介護従事者を対象とした研修会『かいごの学校』を主宰している。
今年は平成26年6月22日に開催。

○専門は介護労働学、福祉社会学。研究領域は介護従事者の視点からみた現状、課題に関するアンケートを通して現場の抱える課題を浮き彫りにし、その解決に関する手法等の考案。

○主な所属学会等
日本介護福祉学会・日本社会福祉学会・日本特殊教育学会・日本保育学会・日本福祉心理学会

○主な報告書・著書
「介護事故」(単著)日本医療企画 2000年
「介護現場の医療行為」(単著)日本医療企画 2001年
「ホームヘルパーさん消滅の危機」(単著)日本医療企画 2001年
「介護の現実と再構築」(単著)日本医療企画 2002年
「どこまで許される?ホームヘルパーさんの医療行為」(編著)一橋出版 2002年
「介護労働学-ケア・ハラスメントの実態を通して-」(単著)一橋出版 2008年
など。

メッセージ

私は介護分野の調査研究をしている関係上、福祉関係者と話をしたり、各地の施設を訪れたりする機会がある。私が肌で感じた介護現場の一側面を紹介したいと思います。

ある老人ホームのデイサービスを利用している鈴木玲子さん(仮名=67歳)。彼女には認知症の症状がある。
彼女はこの施設では厄介者らしい。彼女はトイレに行くと、必ずその後で自宅に帰宅したくなるようだ。
案の定、彼女はトイレから出てくると帰宅するための身支度をし、玄関に向かって歩き出した。
それを静止しようと介護職員が「玲子さんのお部屋はこちらですよ」と言って反対方向に彼女の腕を引くと、「ねぇ!どうして帰してくれないの!」と声を荒げる。
その後、その介護職員が記入した記録ノートには「14時30分頃、玲子さんから奇声あり」と書かれていた。

なるほど、この施設では先ほどのような彼女の荒げた声は〝奇声〟と呼ぶられるらしい。

翌週、別の施設に行くと、例の鈴木玲子さんがいるではないか。
正直、驚いた。あまりにも上品かつ穏やかな表情で珈琲を飲んでいる。
彼女は、どうやらここのデイサービスも利用しているようだ。
彼女がトイレから出てきた。すると、やはり彼女は帰宅の準備を始め、玄関に向かい始めた。

『また、〝奇声〟で周囲を困らせるぞ』と私が不安に思っていると、ここの介護職員は違う。
彼女と一緒に玄関から出ていった。
そこで、私も急いで二人の後を追った。そして、一緒に歩き始めた。
すると、彼女は家族のことや料理の話など、時折笑顔も見せながら散歩をしているではないか。

「そろそろ、中に入って温かい珈琲でも飲みませんか」と介護職員がいうと、「そうね、中に入りましょう」と彼女は自ら玄関を開けた。

その後、介護職員の記録をのぞいてみると、「14時00分、玲子さんと楽しく散歩」とだけ書いてある。〝奇声〟という言葉はどこにもない。

「介護職員が人に寄り添う姿にはアタリ・ハズレがある」ということを私は肌で感じた。

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